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2014年8月 3日 (日)

アフリカの子どもの本

アフリカの子どもの本

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アフリカ大陸には50以上の国があり、民族や文化もいろいろなので、ひとまとめにくくるのは難しい。しかしサハラ以南のアフリカと限定すれば、共通する点もいくつか見えてくるので、それを述べてみよう。  

アフリカ(ここでは、サハラ以南のアフリカを指す)の多くの地域では、歴史的にも現在においても声の文化が文字の文化より優勢である。夜になると集まってお話を語ったり聞いたりすることで共同体の意識を高め、歴史を知り、規範を確認し、楽しいひとときを過ごす。アフリカのストーリーテリングは身振り・手振りはもちろん、歌や踊りも入れたりするので、「演じる」という要素が強い。

またアフリカの多くの地域には、職業的な語り部(グリオ)もいて、それぞれ得意の楽器(コラ、ンゴニなど)を奏でながら民族の歴史を語ったり、儀式の歌やほめ歌を歌ったりする。太鼓の演奏で長い物語を語る場合もある。

こうした歴史や民話は、これまでは‘先進国’の学者たちによって文字化されてきた。しかし、聴衆との掛け合いや、巧みな語りの技をふくむ物語を通訳を介して別の言語にただ文字化していったのでは、あらすじは伝わっても雰囲気は伝わらないどころか、肝腎のエッセンスさえ骨抜きになってしまう場合もある。一方、アフリカにも‘近代化’の波は押し寄せ、放っておくと声の文化は消えていってしまう。

そこで、これまでは語られていた物語をアフリカ人自身の手で収集し、文字にして子どもたちに伝えようとする活動が盛んになってきた。アフリカの各出版社で子ども向けに出される本の多くが民話や昔話の本である。また大学などでも学生が故郷に帰省するときに祖父母から母語による昔話をきいてくるように指示し、それを集めて本にしたりしている。

昔話を絵本にして出版することも盛んである。ナイジェリアにあるアフリカ大学出版局は、1970年という早い時期に、アフリカ各地に伝わる昔話を十数冊絵本にして出版している(写真01)。このシリーズは、教育現場でも使えるように、語彙の説明や生徒への質問、地図なども掲載されている。ただし技術面でもコスト面でも、日本と同じような美しい絵本を出版するのは一部の出版社を除くとまだ難しいのが現状だ。

日本で翻訳されているアフリカ人の手になる昔話・民話の絵本を挙げてみよう。マリのグリオであるジェリ・ババ・シソコが語った『バオバブのきのうえで』(みやこみな再話 ラミン・ドロ絵 福音館書店)、リベリアのグリオであるウォン=ディ・ペイが再話した『ほーら、これでいい』(さくま訳 アートン)、南アフリカのホフマイアーとフロブラーがつくった『ふしぎなボジャビのき』(さくま訳 光村教育図書)、ケニアの画家ジョン・キラカが作った絵本『チンパンジーとさかなどろぼう』(若林ひとみ訳 岩波書店)『いちばんのなかよし』(さくま訳 アートン)(写真02)、などがあるが、多くは ‘先進国’で印刷・出版されている。

昔話以外では、学校物語や冒険物語の出版点数が多い。ナイジェリアで出版されたYA小説の中には、若者が演技している写真を挿絵代わりに使った斬新な試みの作品もある。(写真03)  ただし、児童書の出版は、共通語や公用語で行われることがほとんどで、母語での出版はまだ数が少ない。その背景には、アフリカが植民地として地図上で分割されたせいで、一つの国の中に多くの民族が存在し、一つの民族が多くの国に分かれて住んでいるという事情がある。つまり、教育現場でも経済・政治の場でも母語が使えないため、出版も多くの子どもにとっては母語ではなく第二言語あるいは第三言語で行われているのである。ナイジェリアの作家チヌア・アチェベやシプリアン・エクウェンシの作品が、アフリカのほかの地域でも出版されて学校でも使われているのは、最初から英語で書かれていたことが利点として作用したのかもしれない。

南アフリカは民主化になって以来、言語上の不平等をなくし母語での初等教育を可能にするべく11の公用語を定めた。そのため11言語を並記した絵本(写真04)や、そこまでいかなくても複数言語を並記した絵本なども出版されている。しかし、これまで教育現場での使用を禁止されていた9つの民族語については語彙が日常生活レベルにとどまり、書き言語として育っていない。そのため、教科書づくりさえ大変だという話を教科書編集に携わっている人から聞いた。

アフリカには母語として話される言語が2000〜3000あると言われる。そのすべてを本という形にして出版するのは不可能かもしれないが、たとえば南アフリカの「小さな手」というミニ絵本シリーズは、一部がネット上に公開されていて、任意の母語を入れてダウンロードし、手作りの本をつくることができるようになっている。

アフリカの児童書出版はまだまだ開発途上かもしれないが、すでにおもしろい昔話の本はたくさん出版されており、今後は声の文化と並んで文字の文化にも力点がおかれて、内容面でも印刷面でも質が高まることが期待できる。

(「こどもの本」2013年12月号掲載 日本児童図書出版協会[翻訳家に教わる世界の子どもの本12]に少し加筆訂正しました)


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