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2016年11月20日 (日)

『いま生きているという冒険』

Photo_3 『いま生きているという冒険』
の読書会記録

 

石川直樹 著
イースト・プレス 2011

(よりみちパン!セ)




さらら
:生きるというのは、世界を経験すること。今生きている普通の世界のむこうにある、さらに広い世界を作者は経験し、若い世代に伝えようとしているんですね。南極まで行けて、よかった! 様々な冒険で広がった想像力を通して、この作者は日常もほんの少し視点を変えればまったく違うものが見えてくることを、併せて伝えています。写真の割り付けに特徴がありますね。写真を文章とは切り離して出すのは、不親切からではなく、その写真を前にして、読者がまず感じることを大切にしているのでしょう。

ルパン:わたしは、これはすばらしい本だと思って読みました。インドひとり旅やエベレスト登山など、個々の冒険だけでも1冊の本になるのに……アラスカ、北極、太平洋横断挑戦など、世界をまたにかけた数々の冒険の末、さいごの3行「家の玄関を出て見あげた先にある曇った空こそがすべての空
であり、家から駅に向かう途中に感じるかすかな風の中に、もしかしたら世界のすべてが、そして未知の世界にいたる通路が、かくされているのかもしれません。」で、もう胸がいっぱいになってしまいました。KOです。そこだけ切り取ると、言葉だけでは陳腐になってしまいそうなのに。こんなにいろんなものを見てきた人だからこそ説得力のある3行です。ここまでくると、中途半端なフィクションでは太刀打ちできない、と思いました。

アンヌ:若者の冒険談だと思って読み進めていたのですが、116ページの白クマとの遭遇あたりから、おやっと思い始めました。ここら辺ではまだ、Pole to poleだったので、冒険ものとして読んでいたのですが、足が震えて白クマが去ったとも動けなかったと恐怖について書かれているところから、成果を語るのが目的ではないと気づきました。特に星の運行術を学ぶあたりからは、 冒険ではなく自分自身の中にある先人が持っていた能力を掘り起こす旅になっていき、この章ではとても感動し、羨ましく思いました。ところが、次の空への能力を身につける気球の旅はあまりに無謀で、あっけにとられました。最後の章では、冒険とは何かという考察で始まり、宇宙を内部に持つことが語られていきます。古代の人々が描いた岩壁画や洞窟画、様々な聖地で、別の未知なる世界が自分の中から開かれていく可能性について語るところは、共感するものがありました。現実の世界とは違う世界を探すことは、精神の、想像力の冒険という見解には、実に心を揺さぶられました。

マリンゴ: 非常におもしろく読みました。写真が、カメラマンだから当然ではありますが、すばらしいし、文章も読みやすい。石川さんの文は、他でも読んだことがあるのですが、この本では彼のルーツを順にたどることができて、そういう意味でもよかったです。クラスでいじめを受けたり、イヤな思いをしている子が読んだら、そんな狭い世界のことは大したことない、と励まされるような気がします。外にはもっともっと、広い世界があるのだ、と。もっとも、自分がこれを読んで旅に出たくなるかというと、全然そんなことはなくて(笑)、旅のレベルが桁違いなので、ただただぼう然としながら読み進めていました。自分とこの著者は、生まれ持ったDNAがまったく違うんだなと痛感させられたりもして……。ただ、巻末に近いところで、日常的な生活のなかにも旅はあるのだ、とフォローしてくれている一文があるので、ホッとした次第です(笑)。余談になりますが、この「よりみちパン!セ」というシリーズ、読んだことがなかったのですが、とてもおもしろそうなラインナップで、他にも手に取ってみたいなと、いまさら思いました。

アカシア:とてもおもしろく読みました。最初はちょっと疑問を持っていたんです。たとえば、日常は退屈で戦場のような非日常の空間にいると生きてる気がする戦場ジャーナリストっていますよね。この人もそんな感じで冒険アドレナリン中毒なのかな、と思ったんです。でも、最後の「未知の領域は実は一番身近な自分自身のなかにもある」というところに、20代の後半ですでにたどりつく。それはすごいことですね。ところどころにイラスト入りのコラムがあって、その入れ方も楽しめました。

紙魚:今回、選書するにあたって、いちばんはじめに『レッド・フォックス』が決まったのですが、日本の作品でそれに並ぶものをと考えると、なかなか浮かばず、違う物差しでスケールの大きなものをと考えて出てきたのが、この本です。石川直樹さんご本人が、なにしろスケールがどでかくて、身体能力も高ければ、強調性もあり、人類学の知識もあり、文学・音楽など芸術にも造詣が深い。どの分野にもつねに能力を伸ばしている、希有な人だと思います。しかも、エベレストに登る1歩と、三軒茶屋の街を歩く1歩は変わらないと、本気で考えているというのも、素晴らしいと思うんです。さきほど、写真の入り方について話が出ていましたが、おそらく、その場にいてその世界を感じるということを、写真でも表現しているのではないかと思います。その場に行ってシャッターを切るだけで、世界はなにも説明してくれない。私たちも、この本を読むことによって、何かしらそこに立ち合っているのではないかと思います。

パピルス:わくわくしながら読みました。高校時代や大学時代。自分も異文化や大自然へ飛び込むチャンスは絶対にありましたが、石川さんのように1歩踏み出す勇気がなかったと思いました。留年して同級生から取り残されるとか、就職活動できなくなるとか、いろんなしがらみがあって、それを振り切ることができませんでした。石川さんは、十代の頃から見ていたものや目指していたものが違ったの
でしょう。山への信仰は、畏敬の念からはじまっているというお話が特に印象に残りました。

草場:すごくおもしろく読みました。団塊の世代にはフラッと旅に出る人が多くいましたが、今の学生は保守的ですね。この人みたいに、命ぎりぎりのところに行く人はあまりいない。あの頃は、植村直巳が山だけでなくバラエティに富んだ冒険をしていました。今の若い人も、少しでも冒険をしてほしいですね。留学したくない若者が今は多く、最近は消極的だとききますが、こういう本を読んで刺激を受けて世界に出て頑張ってほしいです。

西山:前にどこかで今の若い人が留学にも消極的とかそういう話が出たときに、30代ぐらいの人だったかな、近年の貧困の問題もあるから経済的にも冒険に行くのが許されない状況があると述べられたことがあります。経済的に上向きのときには、若者がふらふらしているのが許されるのかもしれない。だいたい今の日本で、高校の先生がインドへの一人旅をすすめるというのは、かなり難しいと思います。

レン:状況によるのかなと思います。私が教えている大学では、休学して自費で留学する学生が昔より増えているみたいです。一方で、学生が行きたがっても、親が止めることもあるし。一概に言えないかな。

アカシア:この本でも、「それぞれの街で最安値の宿に行き着くと、そこには必ず日本からのバックパッカーが泊まっています」と書いてあるから、今でも行く人は行ってるんだと思います。ひとくくりに今の若者が保守的とは言えないかも。

西山:本文のおまけのような、カット入りの注釈がおもしろかったです。例えば16ページのバックパッカーの説明とか、笑える。ちょっと気になったのは、気球で高度をあげる危険を語っているところで、「死ぬ前の一瞬の恍惚だったといいます」という記述がありますが、体験者は死んでいるのでは。全体としては、おもしろく読みました。264ページ1行目に出てくる「見晴らしのよい静寂なところ」という言葉が気に入って、今回合わせ読んだほかの2冊にも出てきたなぁと。なんか、作品とは離れて、そういう場所が出てくる作品って素敵なんじゃないかと思ったりしました。124ページ最終行に「マヤ」とあるのは、インカのまちがいですね。ちょっと残念。

レジーナ:私は勤め先のブックトークで紹介しました。犬ぞりの操縦者の家の前に並ぶたくさんの犬小屋の写真や、気球で生活するときの小さなゴンドラの写真を拡大して見せましたが、中学生は喜んで見ていました。私は中学のとき、学校で長倉洋海さんや辺見庸さんの話を聞いて、とてもおもしろかったのを覚えています。今、「この国はこう」と決めつけるメディアが増えていますが、世界に飛びだして自分の目で確かめることができなくても、こういう本を読んで世界を広げてほしいです。

花散里:今回の課題本になるまでこの本を知りませんでした。「よりみちパン!セ」シリーズが、薦めてみたい本のシリーズではなかったから読んでいなかったのかもしれません。読んでみて、世界中を旅してすごいと思いましたし、たくさんの写真が紹介されているとは思いましたが、文章に引っかかるところが、かなりありました。個人的には『深夜特急』(沢木耕太郎/著 新潮社)で、アジアを知り、「旅とは何だろう」と思ってきました。この本は中高生向きだから、こういう書き方なのだろうか、という感じがしました。『深夜特急』以降バックパッカーが多くなり、紀行文やノンフィクションの書き手も増え、藤原新也さんの作品などが多く世に出たという時代の流れもあるのかもしれませんが……。小学校では、「グレートジャ―二―」のシリーズを借りて読んでいる子もいます。

アカシア:文章がひっかかったというのは、どこ?

花散里:全体的な印象ですが……。中高生に向けて書いているから、ちょっと浅いというか、こういう表現なのかしらと、思える文章が気になりました。

マリンゴ: 沢木さんの『深夜特急』は全巻読みましたし、藤原新也さんも読みましたが、石川さんとは、アプローチが違う気がします。むしろ真逆なのかな。前者の方々は、自分探しの旅といいますか、自らの内面に向けて書いているところがあるように思うのですが、石川さんは外に向けて書いているのではないか、と。

アカシア:この著者が子どもだからこの程度でいいと思って書いているとは、私は思いませんでした。最初は好奇心でどんどん進んで行って、次々に新しいことに挑戦しているから、一つのテーマや場所を見つめて深く、というのとはもともと違うんだと思います。「よりみちパン!セ」は、いろいろな分野の入口として存在してるから、入口の役目が果たせればいいんだと思うし。

レジーナ:昔の中高生はちくまプリマーなど新書を読んでいましたが、今は大学生が読んでいるので、「よりみちパン!セ」はより読みやすい中高生向きの新書として作られたのでは。大学のとき、論文で新書を引用した人がいて、先生が激怒していましたが、新書が学術書でないように、このシリーズも高度な読書にはならないけれど、そこから広げていける本ではないでしょうか。

アカシア:昔は岩波新書が中・高校生の学問の入口だったと思うんです。今はそれじゃあ難しいので、こういうもう一段わかりやすいシリーズになってるんじゃないかな。

花散里:「インド一人旅」の29ページ「地獄におちてもらうぜ!」などの書き方が、これでいいのかしらと思いました。世界中を旅して、この1冊にまとめるのには無理があり、全体的に盛り込みすぎな印象でした。

アカシア:深いところにおりていってそれを伝えるというのとは、やり方が違うし、このページ数で、しかもあちこち行っているから、それは仕方がないのでは? 「深夜特急」も「グレートジャーニー」も大部ですから、もっと細かい観察ができる。藤原新也もたとえばインドだけで400ページ以上あるわけですから、当然のことながら細かく観察しつづけている。こっちは、同じような好奇心でも、どんどん違う方向に行くので、一つのことについてが浅いといえば浅いですが。沢木さんや藤原さんの本は著者と一緒に地面を這っていくような感覚になれますけど、これはここと思えばまたあちら的に陸から海、海から空みたいに飛ぶので、しみじみ観察するということはない。でも、好奇心をこういう形で持続させるのもありだと思うんです。また、若い勢いのあるうちは、先人がすでにやっていることを繰り返すのは嫌なんだと思うんです。だからインドならインドをじっくり歩いたりしても、それは他の人がすでにやっているので、二番煎じになる。そういう意味では、判断力にしても身体能力にしても、いろいろな場面で自分を試してみようと思って、しかもそれを可能にしていくのはやっぱりすごいと思います。

散里17ページの、旅に出るということはどういうことなのかの説明にも私は違和感が…。


アンヌ:私は、この1
冊の中で著者がどんどん年齢を重ね、その過程で考えを深めていく感じがしました。いわゆる冒険家とは違う人だなと思い、とても新鮮でした。

(2016年9月の言いたい放題)

 
   

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