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2016年12月 9日 (金)

『二日月』

Photo_3 『二日月』
の読書会記録

いとうみく 著
そうえん社
2015.11





げた
:すごく重いテーマですよね。自分の家族に起きたかどうなるか? 自分がママだったら、あんな風に堂々とできるか、自信がありません。でも、日本も、社会環境とか人々の意識も変わってきているから、昔ほどはつらいことはなくなっていると、思いますけどね。医者は患者に対して、最悪の状況を率直に話さなきゃいけないんでしょうけど、5歳まで生きたら表彰ものだなんて、言い方が間違っていますよね。

マリンゴ:この作品は、発売されて間もない頃に読みました。今回、再読できなかったので、記憶が遠すぎて。いとうみくさんの作品はそこそこ読んでますが、他の作品のほうが好きだなぁ。この本はそんなに……と思ったことは覚えています。

シア:3冊の中で最初に読みました。この作者の本は非常に読みやすいですよね。でも、私はこういう話は苦手です。あまり言いたくないんですが、どの話でも変に前向きで、無駄にキラキラした内容になってしまうので、読んでいて苦しくなります。いかにも課題図書な本ですよね。たった1年間の話なのに、主人公はこんなにつらい思いをしています。でも、周りは弱い大人ばかり。この先どうなってしまうんでしょう? なのに、主人公は無駄に前向きさを振り絞っています。なぜ、上の子が恥ずかしく思っていることを親が汲み取れないのでしょう? 見ないふりをしているのは親の方です。親が弱い分、主人公が強くならなければならない。それが家族のバランスです。本当にこの先がんばれるんでしょうか? 主人公はどんどん自分を抑制していきます。そのうち搾りかすになってしまいそうです。例えば公園での場面ですが、母親は溶け込むことに必死で、生意気な子どもたちの態度や言葉遣いを否定しません。仲良くなろうとすることは良いと思いますが、これでは言葉の暴力の恐ろしさを、この子たちも読者も学びません。主人公が飛び出していってもいいくらいの場面です。弱者は世の中の横暴を黙って受け入れるしかないんですか? 自分が前向きで良い人になれば、あたたかい人ばかりに囲まれてキラキラ生きていけるんですか? 描きたい主人公の強さとはなんなのでしょうか? 子ども向けの作品には今後のための教訓が必要だと思います。題材的に納得いきません。

西山:前に読んだとき題名が全体に生かされきってないと思った、ということと、公園のシーンだけは覚えてました。私は、現実的な作品を論じるときに、作品の外の「実際は……」という実例で語るのは違うんじゃないかと考えるんですが、でも、シアさんの発言を聞いていて、おかしいものはおかしい、というのがほったらかしになっているのはまずいんじゃないかと思いました。結構、それは犯罪だろう、とか、人権問題としておかしいだろうというような言動が、ドラマのひとつの山場として結構でてくる気がして、ダメなものはダメといわなきゃいけない。書いちゃいけないと言うことではなく、相対化はしてほしいと。でも、やはり、ひどいことを言う子どもたちから逃げないあのシーンは印象に残ります。それから、p172で真由が「女々しい」という言葉を使っています。これ、気になりました。いまさらこの嫌な言葉を使う必要があるのかな。p196で「芽生を学校につれてこないで」という思いを「いっちゃダメ」とするのは、新鮮でした。そういう思いをはき出させるのが読み慣れてきた児童文学のやり方だったと思います。

ハリネズミ:とても意欲的な作品ですが、私は、この主人公の心の揺れに、すんなりついていけませんでした。『ワンダー』(R・J・パラシオ/ほるぷ出版)を読んだときは、お姉さんが障がいを持った弟にやっぱり来てほしくないという気持ちについていけたんですけど、これも同じシチュエーションの割りには、すっといかなかった。

西山:香坂直の『トモ、ぼくはげんきです』(香坂直/講談社)も、同様のテーマでしたよね。

ハリネズミ:確かにそうだと登場人物に寄り添えるだけの必然的な流れが感じられなかったのかな。

まろん:対象年齢が小学校中学年くらいとのことで、全体的に読みやすく、障がいについて考える良いきっかけになる本だと感じました。私がこの本を読んで怖いと感じたのは、登場人物が誰も悪気がない、というところです。最後に春菜ちゃんが芽生を抱っこする場面がありますが、これはきっと春菜ちゃんにとって無意識のうちに変わるきっかけだったのではないでしょうか。こういう気付きがないまま大人になると、きっとレジで会ったおばさんのように、自分が言った言葉の重さを知らずに人を傷つけてしまう人になってしまうのだと思います。そういった意味では、この本は子どもたちにとってそうした気付きの役割を持つのではないでしょうか。

レジーナ:ひどい言葉でからかわれる場面ですが、私はそういう言葉を本の中で書いてもいいと思います。日本の児童書は「こういうことは書いてはいけない」というタブーが多いですが、大切なのは作者のスタンスと描き方ではないでしょうか。作者のスタンスがはっきりしていれば、どんどん書いていいし、そこで問題提起をしてほしいですね。難しいのは描き方で、私はこの場面はそこまで教訓的だとは思いませんでしたが、そう感じる人がいたなら、伝え方をもっと工夫したほうがよかったのかもしれません。

エーデルワイス:主人公は自分も構ってほしいという思いを、障がいをもっている幼い妹のために我慢している。その気持ちが伝わってきて、とても切ないです。わたしが開いている文庫に以前、障がいをもっている兄と、その弟が来ていました。弟はとてもおとなしくいい子でした。兄は小学4年生で亡くなりましたが、弟はどんな気持ちだったのかと思います。

ルパン:いとうみくの作品はどちらかというと苦手で、しかも課題図書。というわけで、まったく期待しないで読み始めたのですが……結局、かなりはまってしまいました。良い意味で期待を裏切られました。障がいをもった妹が生まれた、という事実と向きあわなければならない少女の葛藤がとてもよく描かれていると思いました。何も悪いことをしていない友人たちの言動にいつのまにか傷ついてしまう、その微妙な心の動きが、「ちょうど薄紙でスッと指を切るような痛さ。」(P83)という一文で、絶妙に表現されています。杏は、健常者の弟や妹がいる真由、障がい児に親切にする藤枝君、芽生の世話でいっぱいいっぱいのママ、といった存在に、少しずつ少しずつ傷つけられていくのだけど、相手を責められないもどかしさ、苦しさと戦わなければなりません。結局は自分自身との戦いです。それに、芽生が普通の妹だったらやりたかったこともたくさんあったことでしょう。赤ちゃんのときはたくさんかわいがり、大きくなったらいっしょに遊ぶ、とか、勉強を教えてあげる、とか。そういう夢がこの先ずっとかなわない、という切なさもあると思います。まだ幼い杏が、大きすぎる問題とせいいっぱい向きあっている健気さに胸を打たれました。ただ、せっかく、とても自然体に描かれているのに……この陳腐な帯の言葉はいかにも余計だなあ。「あたしと妹。ずっとずっと大切な家族。」だなんて。

アンヌ:最初に読んだ時には、障がいについての物語として読んでいたのですが、読み返して、これは、生命の力についての物語だなと思いました。先程、医者がこんな言い方をするのだろうかというお話が出ましたが、現代の医療場面では、生存確率とかが具体的に示されて治療方針が説明されると思います。患者の家族にとっては、それは余命宣言であり、過酷なものだと思います。赤ちゃんが生まれて喜びに満ちているところに、いきなり「死」というものが来てしまった。死ぬかもしれない家族がいるという状況はきついものです。世界がガラッと変わってしまう。だからこの物語の父親のように、必死で本やインターネットで病気について調べてくたくたになって、ふとしたはずみに主人公をぶってしまうような混乱も起きる。いろいろ大変ななか、父親も母親も変わっていく様子が描かれていき、そんななかでの主人公の動揺がていねいに描かれていると思います。赤ちゃんが生きていき、その命の温かさが、いろいろひどいことも言っていた春奈ちゃんの心にまで「かわいい」と思う気持ちを起こさせる。生きる力というものが、とてもうまく描かれていると思いました。最後も詩的で、何度も読み返すにはきつい本ですが、心に残る物語だと思います。

ハリネズミ:作家のサービス精神が旺盛なのでしょうか。p168で勢い何かが飛び込んできて怖い怖いと思ったら真由ちゃんだったというところ、マンガならいいんですが、シリアスなストーリーで急にリアリティのない場面が出てくると、ちょっと残念。p194で真由が「杏は杏のことをきらいでも、あたしは好きだよ。杏はうわべだけなんかじゃない。一生懸命お姉さんしてる杏も、そうやって自分のこときらいっていう杏も、あたしはどっちも好き」というところも、子どもの言葉というより作者のメッセージが前面に出すぎているように思いました。さっきも言ったんですが、杏が障がいをもった妹に学芸会に来てほしくなくて学校にも行けなくなるというところ、それまでにだいぶんいろんなことを乗り越えて進んできたように思えていたので、ちょっと不自然に思ってしまいました。p186には「友だちに障がいのある妹がいることを知られたくない」と言ってますけど、そんなのは学芸会を見に行くことには関係なく知られるわけだし。一所懸命に書いてる作家さんには悪いのですが、メッセージを伝えたくてストーリーを作ったせいか、人物がいまひとつ生きてこない感じがしてしまったのです。それから、公園の場面では、男の子たちが「キモイのがきた」とか「エンガチョー」とか「こいつヘンなの」と言うんですが、シアさんや西山さんが児童文学に書くべきじゃないとおっしゃっているのは私は違うと思います。言うべきじゃないというのも違うと思うんです。子どものこういう暴言は、かかわりの一つなんです。それを大人が受け止めて人と人のかかわりが始まり、理解も広がるんです。それを「言うな」「見るな」と言うと、障がいを持った人やホームレスや気の毒な人たちを見なくなります。かかわりも一切持とうとしなくなります。そのうちそういう人たちが存在しないかのようにふるまうようになるんです。むしろ、子どもがそう言ったときに、まわりの大人が「だめ」というのではなく、このお母さんのような反応ができるかどうか。そういう意味では、ここはよく考えて書かれていると思います。

(2016年10月の言いたい放題)

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